本当に無知で申し訳ないが、清水一行ってずっと官能小説と推理小説を書く人だと思っていました。それが城山三郎と並ぶ経済小説の巨人だったとは…
本屋に行くと、文庫本コーナーに結構並んでいましたので名前だけは知っていましたが、帯のエロい文句だけが記憶に残ったようです(;^_^A (;^_^A
実際の企業の事件をモデルにした小説が彼の本領だったそうです。そのために大勢の取材スタッフを雇っていたとか。
そんな清水一行の生涯を描いたノンフィクション小説を読みました。
経済小説の巨人・清水一行の波乱の生涯と日本経済の興亡を、現役作家・黒木亮が徹底取材で再現!
城山三郎の2倍近い作品群を残した“経済小説の巨人”清水一行。東京・玉の井の私娼街で育ち、共産主義者として戦後の焼け跡を奔走した後、兜町を這い回って企業小説の書き手としてのし上がった男の生涯を、その時々の日本経済の動向とともに描いたノンフィクション。『小説兜町』でデビューする35歳までの長い焦燥と屈辱の日々と、一躍流行作家になってから79歳で亡くなるまでの生き様を、膨大な取材で再現する。ベルリンの壁の崩壊を目の当たりにして、滂沱の涙を流した男の心にずっとあった想いとは果たして何だったのか!? 毎日新聞出版のサイト より
【目次】
プロローグ~小説兜町
第1章 玉の井
第2章 ああ、インターナショナル
第3章 藤原経済研究所
第4章 小説兜町
第5章 流行作家
第6章 動脈列島
第7章 軽井沢
第8章 ベルリンの壁
第9章 土に還る
400ページ近い内容のなかから私の注意を惹いたものをいくつか拾ってみました。
1.初孫は看板女子アナ
元テレビ朝日の看板アナだった竹内由恵アナは、清水一行の初孫だった-竹内由恵アナは、清水一行の次女(長女は幼い頃に亡くなっている)の長女といった関係。
2.東洋電機カラーテレビ事件
1961年、東証一部上場の電機メーカー・東洋電機製造が、長尾磯吉という自称発明家の「カラーテレビを安価に製造できる電子管を開発した」という提案に乗って、長尾を雇い入れた。
6月に東洋電機は試作機を公表-当時40万円したカラーテレビが10万円で販売できるとし、画質も鮮明であった。
その前後から、松下電器産業との提携話もあって、東洋電機の株価が高騰した。
が、試作品は東芝のテレビに細工したもので、実際にはそんなテレビは存在しなかったことが後に判明した。同社は証券取引法違反(株価操作)で役員が逮捕、長尾も詐欺で逮捕された。
詳しくは『東洋電機製造百年史』に載っています。
https://www.toyodenki.co.jp/100th/history_pdf/theme/39.pdf
こういう詐欺師がからむ事件は、人の業がよく出てきて面白いですね。
3.島耕作シリーズに隠し子がたくさん出てくるワケ
清水一行が1989年に出した「秘密の事情」
モデルは松下電器産業(現:パナソニック)ということがすぐ分かる。
この本のなかで、松下幸之助氏には4人の隠し子がいて、娘婿で2代目社長となった松下正治氏にも2人の隠し子がいたことが暴露されている。
そういえば、島耕作シリーズの初芝電器産業は、松下電器産業をモデルにしていますが、いっぱい隠し子が出てきます。
島耕作本人にもいますし、パートナーの大町久美子は初芝の創業者・吉原 初太郎(松下幸之助がモデル)の隠し子ですし、課長編に出てくる宇佐美専務にも京大生の隠し子がいて、主人公が尊敬する中沢社長にも後にボクシングの世界チャンピオンとなる隠し子がいます。
いくらなんでも多すぎだろうと思いますし、違和感があったのですが、本家の方でもそんなことがあったということで、作者の弘兼センセイからしたら「会社の偉い人には隠し子がいる」というのが自然な発想だったのかと思われました。
4.傲慢な編集者たち~作家 Vs. 編集者
1)坂本一亀
坂本一亀は、河出書房新社で名編集者と言われた人で、三島由紀夫「仮面の告白」や野間宏「真空地帯」を世に出した人として知られていた。
というより、あの坂本龍一の父親である。
清水は処女作「小説 兜町」他の作品を坂本に持ち込むが、坂本は書き直しは命じるが一向に発表はさせず、5年間も塩漬けにする。
どうも純文学には強くても、経済小説の良し悪しを判断できなかったらしい。
その後、三一書房から「小説 兜町」が出てベストセラーになるや、今度は今まで見てやっただろうと恩に着せ、2作目「買占め」を強引に自分のところから出そうとする。しかも相場より印税を値切って…。
「買占め」も良く売れたが、河出は倒産したため、清水への印税の一部は支払われなかった。
2)講談社の女編集者
清水から預かった「小説 兜町」の原稿を読みもせず8カ月自分の机の下に置きっぱなしにした。清水が度々督促しても、驕慢な態度で応じず…。
3)小説新潮の編集者の男
流行作家になった清水一行のところに突然やって来た小説新潮の編集者の男は、尊大な態度で(小説新潮に)そろそろ書かせてやってもいいと言う。実は雑誌に穴が空きそうなのを隠しているらしい。それで執筆中だった他社に書下ろし予定の作品の一部を横取りして強引に載せてしまう。
その後続編を巡ってトラブルになり、以降清水は新潮社から作品を出すことはなかった。
ひと言感想
編集者と作家というと、村上春樹がエッセイ集「村上朝日堂はいかにして鍛えられたか」に「文学全集っていったい何なんだろう」に書いてある話を思い出します。
ネット上の感想を見ると、村上春樹の方を責めるようなものも多い(当の編集者が入水自殺された影響も…)ですが、私には村上春樹の方が断然正論に思えます。
それにしても、今は知りませんが、昔の編集者って新人作家にはこんな感じで応対していたんですね。とすると、埋もれてしまった幻の傑作もたくさんあるのかもしれませんね。
5.清水一行のおすすめ作品
「小説兜町」 ◎
日興証券元営業部長 斎藤博司をモデルにした清水一行のデビュー作
「買占め」
2作目 名編集者・坂本一亀も評価していた名作
「動脈列島」
日本推理作家協会賞を受賞し、映画化もされた(電子書籍版なし)
「虚業集団」 ◎
東海重工倒産事件がモデル、50万部以上の大ヒット作、首謀者の1人は三木仙也 光クラブの共同経営者だった男
「大物」 ◎
「花の嵐 小説・小佐野賢治」 ◎
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